桐村 光太郎 教授

(応用生物化学)


経歴

1983年早稲田大学理工学部応用化学科卒
1988年同博士課程修了(工学博士)
1987年同学助手
1989年同学専任講師
1992年同学助教授
2000年同学教授  現在に至る

日本化学会関東支部幹事   日本生物工学会和文誌編集委員


キーワード

応用生物化学 / 生命工学 / 遺伝子工学 / 微生物工学 / 特殊環境微生物


連絡先

〒169-8555
東京都新宿区大久保3-4-1 65号館312

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E-mail:kkohtarowaseda.jp


研究内容

有用物質の生産を目的とした応用生物化学に関する研究を進めている。酵素に代表される生体触媒は、常温常圧で基質特異的にあるいは位置選択的に反応を進行させることができるため、無理と無駄がなく安全性の高い化学技術を開発する上で理想的な素材となる。そこで、当研究室ではグリーンバイオテクノロジー(環境負荷低減型のバイオテクノロジー)を指向して、新規な反応を実現する微生物や酵素の探索、遺伝子工学や代謝工学を駆使した細胞機能の改良、生体触媒を利用した革新的バイオプロセスの開発を展開している。現在の研究テーマを3系統に分類して以下に示す。

(1) 新規な微生物酵素を利用した立体選択的反応の開発と有用物質生産への応用(代表論文3, 5)
 酵素法による立体選択的反応の開発には新規な酵素の探索が鍵となるが、筆者らは多数の驚異的あるいは魅力的な酵素を微生物から発見している。一例として、新規なグルコース転移酵素を細菌から発見し、これを利用した一段階の水系反応により、メントール(清涼剤)に収率約100%でα-アノマー選択的にグルコースを結合させることに成功した(Fig. 1)。生成物(α-MenG)は新規な食品素材として有望で、口中に含むと最初にほのかな甘味を示し、数分後に清涼感を発する。また、この反応は飽和濃度を越えて生成物が水溶液中に析出する「結晶蓄積型酵素反応」であり、有機溶媒を使用せず、生成物の回収も極めて容易な画期的反応である。当該酵素は多種の有用α-グルコシドの生産に利用できることも明らかにしている。その他、新規な寒天分解酵素によるオリゴ糖の生産、新規な炭酸固定酵素によるサリチル酸誘導体の生産などの研究を展開している。

(2) 極限環境微生物の探索とグリーンバイオテクノロジーへの応用(代表論文6-8)
 微生物は生命多様性の宝庫であり、ヒトが持ち得なかった素晴らしい生物機能が自然界には多数存在する。そこで、極限環境微生物を素材とした新規な応用技術の開発を行っている。これまでに、軽油のバイオ脱硫を目的として難除去性有機硫黄化合物であるジベンゾチオフェンの脱硫を行う好熱性細菌(Fig. 2)を単離し、特異的な分解機能を酵素及び遺伝子レベルで明らかにしている。また、バイオレメディエーション(生物機能を応用した環境浄化)を目的として多環式あるいは複素環式芳香族化合物の分解を行う細菌を取得し、優れた反応特性を明らかにしている。これらの微生物細胞を生体触媒として利用し、特異的な分子変換技術を開発している。

(3) クエン酸生産糸状菌(カビ)の遺伝子工学および代謝工学による育種(代表論文 1, 2, 4)
 クエン酸の世界的需要は年間約100万トンに達しており、これは糸状菌Aspergillus niger(クロコウジカビ)を利用した工業的発酵によって生産されている。当研究室では、クエン酸生産糸状菌A. nigerの機能開発を目的として、分子育種に関する研究を進めている。すでに、細胞融合法(プロトプラスト融合法)を適用して、従来は困難であった系統の異なる生産菌間での雑種株を作成し、クエン酸生産性の向上に成功している。また、クエン酸生産に関与する酵素として、citrate synthase、NADP-isocitrate dehydrogenase、alternative oxidase(新規シアン耐性呼吸系酵素)をコードする遺伝子をクエン酸生産糸状菌から初めてクローニングした。これらの遺伝子については、塩基配列を決定し、遺伝子破壊や異種生物における発現によって機能を解析した。さらに、代謝工学の手法によってクエン酸生産性の改良にも応用している。


代表論文

1. "Cloning and Expression of the cDNA Encoding an Alternative Oxidase Gene from Aspergillus niger WU-2223L", Curr. Genet., 34, 472-477 (1999)

2. "Cloning and Sequencing of the Chromosomal DNA and cDNA Encoding the Mitochondrial Citrate Synthase of Aspergillus niger ", J. Biosci. Bioeng., 88, 237-243 (1999)

3. "α-Anomer-Selective Glucosylation of Menthol with High Yield through a Crystal Accumulation Reaction Using Lyophilized Cells of Xanthomonas campestris WU-9701", J. Biosci. Bioeng., 89, 138-144 (2000).

4. "Contribution of Cyanide-Insensitive Respiratory Pathway, Catalyzed by the Alternative Oxidase, to Citric Acid Production in Aspergillus niger ", Biosci. Biotechnol. Biochem., 64, 2034-2039 (2000)

5. "Enzymatic Synthesis of α-Arbutin byα-Anomer Selective Glucosylation of Hydroquinone Using Lyophilized Cells of Xanthomonas campestris WU-9701", J. Biosci. Bioeng., 93, 328-330 (2002).

6. "Biodesulfurization of Naphthothiophene and Benzothiophene through Selective Cleavage of Carbon-Sulfur Bonds by Rhodococcus sp. Strain WU-K2R", Appl. Environ. Microbiol., 68, 3867-3872 (2002).

7. "Thermophilic Biodesulfurization of Hydro- desulfurized Light Gas Oils by Mycobacterium phlei WU-F1", FEMS Microbiol. Lett., 221, 137-142 (2003).

8. "Cloning of a Gene Encoding Flavin Reductase Coupling with Dibenzothiophene Monooxygenase through Coexpression Screening Using Indigo Production as Selective Indication", Biochem. Biophys. Res. Commun., 313, 580-585 (2004).